- 1投稿者:名捨て人@御昼です 投稿日:2003/05/01(木)12:01:46
- 頭の中に沸きあがってくる話をとり止めなく綴ります。
長編なのかエッセーなのかエロいのか…心の赴くままに!
登場人物、団体名は実在のものとは何ら関係ない・・・・・・と思う。
- 2投稿者:名捨て人@御昼です 投稿日:2003/05/01(木)12:05:29
- うわ〜ッ!!!11
いきなりメール欄に書きこんでおいたメッセージが
読めなくなってるし前途多難だなこりゃ(汗
- 3投稿者:ぁゃゃ 投稿日:2003/05/01(木)18:10:47
- これは1レス1完結ですか?
- 4投稿者:ぁゃゃ 投稿日:2003/05/01(木)18:25:17
- あー・・つまり皆でつなげていくとかではなくて
自分の作った話を発表するってことですかね?
- 5投稿者:再会1 投稿日:2003/05/01(木)18:39:15
- その日も、いつものように家に帰るのが遅かった。
遅い、と言っても12時を廻ることは稀である。
そんな遅くまで家に辿りつける電車がないからだ。
我が家は僕と両親の3人暮らし。僕は世間で言うところの
「パラサイト・シングル」に属するらしいのだが、一応は家計に
「生活費」名目で月に5万円ずつ入れている。
「でも、やっぱり楽させてもらってるから偉そうに言えないかな。」
母が作っておいてくれた夕食を、電子レンジで温めながら
ネクタイを解きつつテレビのリモコンを目で探した。
「なんや、あんた帰ってたんかいな?今帰ったんか?」
母が眠たそうな顔をしながらリビングに入ってきた。
「ああ、今さっき帰ったとこやで。」テレビのリモコンで
ニュース番組を探しながら答える。
「遅いやないの最近、残業か?体だいじょうぶなんかいな。」
母は僕がいくつになっても病弱な子供のころを思い出すらしい。
「仕事だけちゃうしな、遊びで遅くなることもあるし。」
適当に言い繕ったら母は、「はやく寝なさい」と言い残して
寝室へ行きかけたが、「あんたに手紙来てたん、部屋に置いてあるよ」
と思い出したように言ってから欠伸をした。
- 6投稿者:再会2 投稿日:2003/05/02(金)13:48:31
- 「ふん。」どうせ不動産屋のDMか、生命保険のおばちゃんの
手書きの封書かそんなものだろう、別に気にもとめなかった。
「それと、秀男が最後やからお風呂のお湯、ほかしといてよ。」
母はそう言い残すと寝室に戻っていった。
テレビでは、関東のとある川に迷い込んだアザラシのことを
面白おかしく取り上げていた。
「ほっといたれや、のう?!」思わずテレビに声を掛けたが
ビールの酔いがちょっと回ってきたかと苦笑いする。
あんな所にずっと居たら友達も彼女も出来ないよなあ、
川の中を行ったり来たりしてるだけだったら
まるで職場と家を往復している自分と同じじゃないか・・・・・・
「でも、電車の中には人が居るしアザラシよりチャンスはあるな。」
そう思い直した頃には缶ビールは空になっていた。
「後は、風呂入って屁ぇこいて寝るだけやな。」
誰に言うわけでもなく呟くと、食器を流しに運び握り潰したビール缶を
空き缶用のごみ箱にむかって投げた。
寂しさを打ち消すように大きな音を立ててごみ箱におさまった。
リビングに静寂が戻る。
- 7投稿者:再会3 投稿日:2003/05/02(金)14:46:27
- 着替えの下着を取りに2階の自分の部屋に入ると
机の上に見慣れない封筒が置いてあるのに気づいた。
そういえば、さっき母が手紙がどうのと言っていたな・・・・・・
封筒の表には「杉田 秀夫様」と印刷された宛名があった。
「秀夫、じゃなくて秀男やろが?」ワープロが普及してから
こんな誤字の郵便物がたまに来るのがどうも気に入らない。
封筒を裏返すと、大学のコーラス部のかなり年配のOBの名があった。
「なんやろ?また定期演奏会でOB合同ステージでもすんのか?」
封筒を開けるのは風呂から上がってからにしようと思い、
机の上に再び封筒を置きなおした。
「そう言えば、もうかなり合唱から遠ざかってるよなぁ。」
ぬるめの風呂にどっぷり浸かりながら考えた。
そして、学生時代の甘酸っぱいような、ホロ苦いような想い出が
つぎつぎと浮かんでくる。
「こんな想い出に浸るようじゃ、ほんとにおっさんになったな。」
しかし、心地よい湯加減とアルコールのせいで回想は続いた。
「学園生活をエンジョイしてやるんだ!」
大学に合格したときはそう思っていた。
- 8投稿者:再会4 投稿日:2003/05/02(金)16:02:57
- 高等学校というのは僕にとっては「大学へ行く通過点」
でしかないと思っていたし、クラブ活動も参加しなかった。
今にして思えば、なんて馬鹿なことを思っていたのであろうか。
「大学に入れたら、まずバイクの免許を取るんだ、そして
サークルか何かに入って彼女を作って・・・・・・」
そんなささやかな野望を秘めて高等学校を卒業したのだった。
運動音痴の帰宅部だった僕が大学に入ってから体育会系の
クラブなんて入ろうと思う筈もなく、文化系のクラブを探していた時
たまたま同じクラスになった須藤が
「クラブ決まってないの?じゃあ見学に来なよ。」
と、誘ってくれたのがコーラス部だったと言う訳だ。
もともと歌う事が好きだったというのと、そのコーラス部が
初心者でも入れるレベルだったこと、そして何よりも
「女子部員が多い」というので入部を決意した。
楽譜も満足に読めないのに3回生の時はバスのパートリーダーを
やったりと、結構しんどいこともあったけど充実した日々だった。
ただ、彼女が出来なかった、ということを除いては。
回想するのを止めて風呂から上がり、自分の部屋に戻ると
ペン立てに差してあったハサミでさっきの封筒を開けた。
「OB会の案内」とあった。・・・・・・つまり、同窓会みたいなやつか?
- 9投稿者:再会5 投稿日:2003/05/02(金)16:36:43
- 寝ぼけた頭で文面を読む。「創部50周年」というのが目を引いた。
まあ簡単に言えば、元部員の「合同同窓会みたいなもの」ということらしい。
「そういえば卒業以来、会っていない先輩もいるしなあ」
なんだかわくわくしてきた。
卒業以来、数回転職したものの日常生活では職場の人間と家族しか
顔を合わせることはない生活に変化はなかった。
「いや、ちょっと待てよ。5年くらい前は半年に1回は同級生とは会ってたな」
じぶんの思い違いを訂正したがそれでも会っていた相手は限られてくる。
「須藤も、あいつが所帯持ってから1回しか会ってないしなあ
そうそう、市島も卒業して3年ぐらいはしょっちゅう飲みに行ってたのに。」
「市島のやつ、まだ学校の職員で残ってるんかな?
そうそう、2年前に電話したっきりで連絡とってなかったっけ」
布団のなかで再び回想が始まる。
それよりも、まだ自分がOB会に行けるかどうかが分からない。
そう思いながら眠りについた。
- 10投稿者:再会6 投稿日:2003/05/02(金)18:08:54
- 市島とは学部は違ったけどもコーラス部の中では
一番「うまの合った」奴だった。
よく彼の下宿に泊めてもらったこともあったし、
彼が熱を出して寝こんだ時には家から駆けつけて
おかゆさんを炊いてあげて看病したこともあったが
周囲から「特殊な関係」だと思われていると知った時は笑った。
しかし、冗談ぬきでこの「風評」のせいで学生時代に
彼女が出来なかったのではないかと思っている。
市島は大学の研究室に職員として残り、「博士論文をどうにか
でっちあげて」助手になった、と自嘲的に語っていた。
今も助手のままで居るのだろうか、それよりも母校に残って
いるかどうかも気になる。
へんな噂が学内にまで及んでいたのか、研究室の男子学生から
「告白」されたことがあると市島は笑いながら話していた事もあった。
OB会の案内が届いてからちょうど一周間経った時に、
その市島から電話が掛かって来た。
- 11投稿者:紗夢晴@途中経過? 投稿日:2003/05/02(金)20:32:54
- う〜ん。後で読み返すと書きなおすべき箇所が
いくつもあるナ(汗)
もっと推敲すべきだった・・・・・・
しかしこのまま続行!
- 12投稿者:再会7 投稿日:2003/05/14(水)17:16:47
- 風呂上りに自室のベットに寝転んで、バイクの雑誌を見ていると
机の上の電話機が点滅し、呼び出し音が鳴り響いた。
留守番設定にしてあったので、慌てて枕元の子機の方を取る。
「もしもし・・・杉やんかぁ?」
聞き覚えのある声と喋り方、市島だった。
「おぅ市島、ひさしぶりやのぅ、元気しとったんかい?」
彼の喋り方につられるように、僕も喋る。
「まぁな、なんとか生きとるよ、クックックック・・・・・・」
しばらくの間、お互いの近況報告がてら談笑した。
市島は、まだ大学に助手として残っているらしい。
「じゃあ、次は助教授の座だな。」と話を振ると、
上がつかえているから当分は無理だと笑い飛ばしていた。
「ところで。」 市島が話題を変えるように一言おいて、
「杉やん、結婚はせぇへんのん? え、どぉかね?」
と、ふざけたような口調でこちらに話題を振ってきた。
「結婚?!ないッ!!」
直下に答えたら、電話の向こうで笑いをかみ頃す様子が伺えた。
「あのなぁ、市島、お前と違て俺の職場には適齢の女の子とか
全くおれへんねんぞ、お前こそ結婚わいな?え!?」
- 13投稿者:再会8 投稿日:2003/05/14(水)17:27:04
- すぐさま市島に水を向けた、大学の職員ともなれば身の回りに
女子学生が沢山いて、選り取り見取の筈である。
「いや〜、若い子にはついて行かれへんのよ、TVドラマとかも
ビデオに取って必死で見て話題についていこうとするけどダメ!」
市島は冗談とも諦めともつかぬ口調で答えた。
結局、お互い縁がないんやなあ、と大きくまとめた時に
「そや、OB会どないすんねん、杉やんは行くんか?」
と、ようやく本題のOB会の話になった。
「俺なぁ、休みの予定が分からへんのよ、行きたいのはやまやま
なんやけど、そうそう無理に休みも取られへんしなぁ・・・」
現時点では、行けるかどうか不明だと伝えると
「そうかぁ、杉やんが行かへんくて、他に誰も知った人が
おらんかったらアレやしなぁ・・・先輩、後輩も誰が来るか
わからへんし。」
市島もなにやら決めかねている様子だった。
同期の須藤が来るかも、と言ったら、「どうでもいい。」
とニベもない返事が帰って来たので笑った。
市島は、優等生ぶってた須藤を別に嫌っている訳ではないのだが
何故かそんな風な言い方を前からしていた、変わっていない。
- 14投稿者:再会9 投稿日:2003/05/14(水)17:30:46
- 「そや!ところで。」
市島が思い出したように喋り始める。
「なぁ、仁美ちゃん来るの?どうなの?どうなの?」
軽く興奮したような口調で訊いてきた。
そう、市島は学生時代は香川仁美にベタ惚れだった。
彼女は僕らの回生のマドンナ的な存在だったし、ほかの学部の
連中からも結構人気が高かったらしい。
当時の女子生徒といえばブランド物をひとつは身に付け
メイクをして水商売のお姉さんみたいな格好をしているものが
結構多かったりしたものだった。
しかし香川仁美は、「清楚なお嬢様」という雰囲気の女の子だった。
いい例えが見つからないが「お茶目な吉永小百合」という感じで、
ある種独特の、大人びた落ちついた感じの子だった。
僕はと言えば、まあ仁美ちゃんは「好き」な部類に入っていたが
なにかしら近づきがたいオーラのようなものを感じていた。
と言うか「彼女と僕では釣り合いが取れない」と最初から
いわゆる「恋愛対象」からは外れていた。
その仁美ちゃんも卒業して3年後だったかに、学生時代に
同じゼミだった同学年の男性と結婚した。
- 15投稿者:再会10 投稿日:2003/05/14(水)17:33:30
- そのときの市島の悔しがりようといえば言っちゃ悪いが
端から見ていても笑えた。そして人妻になった今でも
「仁美ちゃん、仁美ちゃん」と、拘っているのである、この男は。
「仁美ちゃんねぇ、お子さんもまだ小さいし来ゃぁへんの違う?」
僕は素っ気無く答えた。残念がる市島に年賀状ぐらいのやり取りは
ないのかと尋ねたら、「年賀状は返事しか出さない」との事。
それじゃあ音信不通にもなるわいなと言いかけた時に
「仁美ちゃん来ないかなぁ?きっとあのままで綺麗なおかあさんに
なっているんやろなぁ・・・会いたいなぁ。」
と、うわ言のように電話口で言っていた。
僕は同じ回生の女の子では、仁美ちゃんとだけは年賀状の
やりとりが続いていた。今年の年賀状は写真のやつだった。
その写真でははっきり言ってかなり「おばさん」になっていた。
「会ったら幻滅するデ。」と市島によっぽど言ってやろうかと
思ったが、彼の夢(?)を壊すまいと黙っていた。
「もし、仁美ちゃんが来るような情報が入ったら君に真っ先に
報告するよ、まぁ期待せんと待っとき。」
そう締めくくると電話を切った。小一時間は話していただろうか。
- 16投稿者:再会11 投稿日:2003/06/10(火)19:49:02
- 市島との電話をきっかけに、今まで忘れかけていた学生時代のことが
いろいろと思い出された。
大学時代には幾つかの恋をしたが、いずれも上手くいかなかった。
上手くいかなかった、というよりも「相手に既に彼氏がいて」だとか
もたもたしているうちに「彼氏を作られたり」とかそんなのばかりだった。
いろいろ思い出しているうちにフラッシュ・バックのように一人の女の子の事を
思い出した。そして、胸が甘酸っぱいような気持ちでいっぱいになってきた。
栗山慶子。
コーラス部へ入部してから、と言うか大学へ入って一番最初に好きになった子だ。
むしろ「初恋の人」と言ってもいいだろう。
無味乾燥な受験勉強中は、恋愛なんか2の次3の次だった。
受験勉強から解放されて、夢のキャンパスに足を踏み入れた時、僕の目の前に
「天使が舞い降りた」まさにそんな感じだった。
決して美人というわけではなかったが、笑顔がすごくチャーミングだった。
腰まで届きそうなサラサラのロングヘアで華奢な体つきをしていた。
「麦藁帽子をかぶって、パステルカラーのワンピースの裾と長い髪を
風になびかせて草原に立っている」
そんなイメージがぴったり合う子だった。
- 17投稿者:再会12 投稿日:2003/06/10(火)20:12:48
- 恋は盲目というが、彼女の仕草ひとつにさえも心奪われた。
練習の休憩時間中に、彼女がピアノでショパンの「夜想曲」を弾いていたとき
その横顔を少し離れて見ていて、僕は確信した。
「僕は栗山慶子のことがすごく好きだ。」と
今でも、彼女の顔を思い出そうとすれば何故か横顔ばかりが浮かんでくる。
と言うよりも、遠くから見ている事のほうが多かった。
まあ、「告白できない、腰抜け野郎」だった訳なんだ・・・・・・
いい歳して、恋愛初心者だったということもあったし、
「同じコーラス部内で、もし振られたりしたら後はどうなるのか、
どんな顔すればいいのか。」
などと、今となってはどうでもいいような事で躊躇していた。
それと、栗山慶子は市島と同じ学部、つまり僕とは違う学部だったので
クラブ以外では顔を合わせることは、まずなかった。
唯一の「接点」とも言えるコーラス部で、滅多な事はできない、そうも思った。
とりあえず毎日、クラブに顔を出せば彼女に会える。
しばらく、そんなささやかな幸せをかみしめながらの学園生活が続いた。
- 18投稿者:再会13 投稿日:2003/06/10(火)20:35:59
- そんな「ささやかな幸せ」に変化が出てきたのが夏合宿の時だった。
その頃になれば、新入生同志でカップルが出来そうになったりとか、
先輩からも「君は誰が好きなんや?言うてみ?」なんて話になるのが
毎年の恒例行事のようになっていた。
僕もとある先輩に「まあ、敢えて言うなら栗山さんがいいかなぁ・・・」と
曖昧な返事をした訳だったが、それが一部の女子にも伝わっていた。
合宿の3日目だったか、夕食が終わって休憩時間の時、
仁美ちゃんが意味ありげな笑顔で僕に近づいてきてこう言った。
「杉田くん、慶ちゃんのことが好きなん?」
僕は慌てた
「いや、あの、どーいうんかなあ、ええ感じと言うかその・・・・・・」
仁美ちゃんは僕の表情を見て、やっぱりそうなのねという顔をした。
「一緒にお風呂入ったけど、慶ちゃんてああ見えて胸がおっきいんよね。」
僕は自分の顔が赤くなってることは自覚していたが、
「ふうん、そう。」と興味なさげな返事をしてみせた。
それとは裏腹に、華奢に見えてるけど以外にも着やせする性質なのかと
頭の中で想像しはじめようとする自分自身を抑えるのに必死だった。
- 19投稿者:再会14 投稿日:2003/06/10(火)20:54:00
- 「そうだ、慶ちゃんに『誰が好きなのか』訊いてあげようか?」
仁美ちゃんは突然言った。
「いや、別に僕はやねぇ、そういうのは、あのぉ・・・・・・」
思いがけない展開に、さらにしどろもどろになっていると
「大丈夫、杉田君の名前は出さないから心配しないで。」
仁美ちゃんは器用に片目を瞑って見せると踵を返した。
「もし、『杉田君』なんて答えだったらどうしよう。」
一瞬ではあるが、そんな思いが頭をよぎった。
でも、落ちついて第三者の目から見るならその可能性は限りなくゼロに近かった。
どう考えても、彼女から見て僕は「その他大勢の人のうちのひとり」だった。
翌日、仁美ちゃんが僕に告げてきた
「はっきり言わないんだけど『クラブの中では橋本先輩』って言ってたわ・・・」
思ったとおり、というかやはり僕である筈がなかったか。
はっきりと現実を突きつけられると、悔しい反面、すっきりするものである。
「僕のことは、眼中には無い、ということなんやね。」
- 20投稿者:再会15 投稿日:2003/06/10(火)21:11:15
- 彼女に対する熱が冷めかけた頃、それは秋ごろだったか。
キャンパスの中を同じ学部の男と肩を並べて歩く姿を目撃するようになった。
敢えて誰にも「あれって彼氏なの?」とかは訊かなかった。
いちいち確認する必要なんかない。
自分の惨めさがさらに強く感じさせられるだけのことだ。
自分自身で必死に「熱」を冷ました。
今にして思えば本当に「熱病」だったのかもしれない。
こうして僕の「初恋」は終わった。
彼女とは、まあ「同じコーラス部」としての付き合いはあったし
卒業してからしばらくは年賀状のやり取りくらいはあった。
しかし、彼女が喪中だったか引っ越したせいだったかで
いつのまにか連絡が途絶えてそれっきりになった。
いま彼女はどうしているのだろう?
結婚して子供もいるのだろうか、それとも・・・・・・
彼女に会って見たいと思う反面、
「歳とって、『おばちゃん』になった姿は見たくない。」
僕の中でそんな葛藤が生まれた。
- 21投稿者:再会16 投稿日:2003/06/11(水)19:41:56
- 時の流れというのは残酷なものである。
在学中に、卒業したOBが訪ねて来ることがしばしばあったが、
人によっては、本当にあっという間に老けてしまうのだ。
密かに憧れていたある女性の先輩が、卒業して結婚した途端、
所帯やつれなのか、すごく「おばちゃん」になってしまっていた。
しかも、結婚してから文字どうり「あっ」と言う間に。
彼女とは卒業以来、10年以上も会っていない。
周囲の同世代と思しき女性を頭に思い浮かべれば、
子供は育ちざかりで家事育児に疲れきった母親の姿しか
想像できなかった。
「別に会えなくてもいいか、想い出はきれいなままのほうが
いいかもしれないしな・・・・・・」
一度くらいは再会できないかという期待が僕の胸を
満たしていたのに、冷静に考えるにつれて消つつあった。
それよりも、「先輩、後輩にひさしぶりに会って見たい」
この思いの方が強かった。
「そういえば、まだOB会の出欠を出していなかったな。」
- 22投稿者:再会17160,000かきこ目げっと! 投稿日:2003/06/27(金)19:40:10
- 「杉田さん、何を難しい顔してはるんですか?」
声を掛けられて、はっと我にかえった。
見ると、何時の間にか隣の席に総務課の水谷和美が
ずり落ちそうになる眼鏡を指で押さえながら、不思議そうな顔をして
ちょこんと座っていた。
「いやぁ、まだ先の話なんやけど、日曜日に休みが取れるか考えてたんよ。」
僕は彼女にそう答えた。
「へえ、仕事大好きの杉田さんが自ら休みを取りたいなんて珍しいですね。
・・・・・・ひょっとして、お見合ですか?」
声を立てずに軽く笑って見せた。
「大学のOB会があるんでね。その日に急に出勤させられたりとは困るし。」
「そうなのかぁ、うふふ、残念!」
「何が残念なんよ、何それ?」
僕の視線は、無意識に彼女の胸元に吸い寄せられていた。
彼女が笑ったり、身振り手振りを交えて話す度に揺れた。
まさに「絶妙な揺れ方」だと思ったが、そんな事は口には出せない。
おそらく、脱いでも大きくて形が良いのだろう・・・・・・
「ところで、杉田さん今晩時間あります?」
- 23投稿者:再会18 投稿日:2003/06/27(金)21:02:55
- 彼女は声を少し低くして僕に尋ねてきた。
「え?水谷さん、それってデートのお誘い・・・・・・では無いわな、で、何なん?」
今まで何回かは職場の仲間同志で飲みに行ったりして、その中に彼女が
入っていたことはあったが、彼女からの誘いは初めてだった。
「ちょっと、相談があるんですよ。」
彼女は人差し指で眼鏡を押し上げながら答えた。
瞳の奥からなにかしら真剣なものを感じ取った、僕も小さな声で答える。
「・・・まさか、誰かにセクハラされてるとか?」
「そんなんと違いますう〜!」
彼女は膨れっ面をしてみせてから、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「ごめんごめん、別に茶化すつもりはなかったんやけどね。
せやかて、今日は僕が早く仕事片付くか分かれへんけど?」
僕はそう言いながら壁に掛かってる時計の方を見た。
「そんなに無茶苦茶遅くはならへんでしょ?待ってますよ、あたし。」
そう言い残すと彼女は自分の席に戻った。
いい形のお尻だ、そう思いながら自分の仕事の続きを始めた。
水谷和美と僕は「ある秘密」を共有していた。
場合によっては「僕自身の進退に影響するような」事件があったのだ。
いまは僕も彼女も、敢えてその事には触れないようにしている。
- 24投稿者:再会19 投稿日:2003/06/27(金)21:37:28
- あれは丁度2年前の今くらいの時期だったろうか。
その日は職場には、僕ひとりしか居なかった。
支店長は出張。ほかの内勤の人間も東京本社で研修やら何やらで
気が付けば僕が「留守番」になってしまったのだった。
一人は気楽だが、電話の取次ぎには閉口した。普段は総務課の方で
素早く電話を取って応対してくれているのであんまり電話を取ったことが
なかったのである。
いつの間にやら伝言のメモが十数枚になっていた。
「自分の仕事のペースが乱されるなあ。」
しかし、昼前には電話も殆どかかってこなくなった。
ちょっと一息コーヒーでも飲みたい、と思い椅子から立ちあがり伸びをする。
僕の職場というのは小さなオフィス・ビルの3階にあって来客など人の出入りは
殆どといっていいほど無い。
エレベーターをわざわざ使うのは面倒なので階段で1階まで降りると、
表の自動販売機で冷たい缶コーヒーを買った。
「ええ天気やなぁ、絶好のツーリング日和やんか・・・もったいない。」
そう思いながらとぼとぼと階段を昇って行った。
そして、自分の職場へ戻った。
- 25投稿者:再会20 投稿日:2003/06/27(金)22:05:24
- 缶コーヒーを自分の机の上に置いてから、
「さあてションベンしてから、おっぱじめるかなぁ。」
と、独り言を言うと手洗いの方に歩いていった。
ちなみに、うちの職場のトイレは今時男女共用の和式なのであるが、
ドアを開けると、真っ白な女のお尻が目に飛び込んできた。
「うわぁっ!!ご、ごめ、すいません!!」
中の女の人の悲鳴よりも大きな声で叫びながらドアを閉めた。
頭の中はパニック状態になっていた。
落ち着け。落ち着け。でも今のは一体何なんだ?
職場は今日は俺独りのはずだよな?幻覚でも見たんかな?
いや、でもあんなにはっきりと見えたじゃないか。
女の人だったよな?総務の和島さんは一ヶ月前から産休とってるから
会社の人間じゃないよな、外部の人間がトイレ借りに来たのか?
問題は、出てきた女の人にどう対処すべきかである。
すぐにトイレから出てくる筈だ。
こんな短時間のうちに、こんな事態にどう対処すべきかを考えろなんて
後にも先にも恐らくこのときぐらいだっただろう。
- 26投稿者:再会21 投稿日:2003/06/27(金)22:29:34
- 「とにかく、謝って謝って謝り倒す。それしかないやろ。」
そう腹を括った時に中から女の子が出てきた。
一見華奢に見えるが、大きな胸の眼鏡をかけた女の子が今にも泣き出しそうな
顔をして俯きかげんで言葉を発そうとした。
その前に僕はまくし立てるように謝り始めた。
「いや〜ほんまにゴメンなさい!まさか人が居るって思わへんかったし
ノックせえへんかったのも悪かったけど今日は僕一人やからまさかこんな事
なるとは知らんし、それに、あの、見てへんからね!一瞬でなんやらアレやった
から見てへんよ!ホンマにゴメンなさい!」
目を合わせることが出来ず、ペコペコしてる僕に向かって、その女の子は
蚊の鳴くような小さな声で言った。
「あの・・・・・・もう、いいですから。」
僕が顔を上げると、彼女は真っ直ぐ僕の目を見てこう続けた。
「私、こちらで明日からお世話になる京都支店におりました水谷です。」
「え?!和島さんの代わりに京都支店からくる人って君やったんか!」
「はい、今日は職場の下見に寄せてもらったんですけど。」
背中を冷たい汗が流れるのを感じた。
- 27投稿者:再会22 投稿日:2003/06/27(金)22:47:22
- とにかく、「最悪の初顔合わせ」だった事には違いない。
僕は職場を一瞬とはいえ「もぬけのから」状態にしてしまった訳で、
もしも泥棒などの類だったらやられてた筈である。
ちょうど、オフィスへの窃盗が増えていて、うちの職場も手を打っておこうかと
支店長から話しが出ていた矢先の出来事だった。
まあ、この事件は二人の間で暗黙のうちに「秘密」となった。
それよりも彼女にしてみれば「忘れたい出来事のひとつ」なのであろう。
うちの職場はフレックス・タイム的な変則な勤務時間である。
僕の仕事が終わる時間に合わせようとしているのか、
まだ水谷さんは仕事をしているようだ。
「あと、2、30分くらいかなぁ・・・・・・もう、支度してもええんちゃう?
女の人は色々と時間がかかるみたいやし。」
職場のEメールでそう送ると、しばらくしてから彼女がこちらを向いて
微笑んだ。
- 28投稿者:再会23 投稿日:2003/08/19(火)20:51:53
- 気がつくと、職場には僕と彼女の二人だけになっていた。
彼女は更衣室に入っていたものの、なかなか出てこない。
「別に僕と二人だけなんだから気合入れて化粧直さなくてもいいのになぁ。」
そう思いながら意味無く手帳をめくりながら目を通した。
手帳を見ても空白が目立つ。営業マンだった頃はびっしりと得意先を回った
メモが書きこまれてあったが、今は会議のメモ程度である。
それどころか「プライベートな用事」のメモなんてひとつもない。
外回りだったころはそれなりに接待だなんだと外で遊ぶようなこともあったが
いまは会社と家の往復である。
「伝書バトみたいやのう?」とある人から言われたことがあるが
それでもたまにはこうして飲みに行ったりすることはある。
「ごめんなさ〜い、お待たせしましたぁ。」
やっと支度を整えた水谷和美は紺色のパンツ・スーツという格好で
髪の毛は後ろのほうで纏め直していた。
別なルージュを引きなおしたのか、さっきよりも口元が艶やかに見えた。
眼鏡も仕事用と普段用で使い分けているのか、さっきまで掛けていた
「事務所のおばさん」みたいなのではなく、ピンク色っぽいフレームの
可愛らしい眼鏡に掛け換えていた。
- 29投稿者:再会24 投稿日:2003/08/20(水)15:10:05
- 雰囲気が、がらっと変わったように感じ、「どきり」と
させられた。口の上手い遊び慣れたような男だったら
さりげない誉め言葉のひとつでも、さらりと言ってのける
のだろうが、僕は出かかった言葉を飲みこんだ。
「とりあえず、メシ・・・食事するよね?せやけど僕、
あんましお洒落な店とか知らへんよ。何食べたい?」
会社を出て、ゆっくりと歩きながら彼女に話しかけた。
「あたし、好き嫌いないですから何でもいいですよ。」
「何でも、いうのが一番困るんやけどネ、言うてみ?」
水谷和美の横顔を見ながら昔、誰かとこんな状況で
同じような会話をしたような気がする、と思った。
「じゃあ、杉田さんがよく行くお店にして下さいよ。
あ、ヘンなお店とかエッチなお店とかは無しでね。」
「ヘンな店て何よ。それから食事やって言うてるやんか・・・
えっと、よく行く店って言うたら『なか卯』や180円ラーメンでもええんかいな?」
彼女は声を立てずに笑い、眼鏡を人差し指で押し上げながら
それはちょっとねえ、と小さく答えた。
五分と歩かないうちに、居酒屋「寿美屋」の前に着いた。
「居酒屋でも、かまへんかな?」
- 30投稿者:再会25 投稿日:2003/08/20(水)17:02:54
- 「ええ、こんな居酒屋のほうがいいわ。よく来るお店なんですか?」
「うん、まあね。」
そう言って店の中に入っていった。
「寿美屋」は僕と同い歳の夫婦がやっている店で、何時の間にか
通っているうちに「同級生扱い」されるようになって、大将からは
「杉ちゃん」と呼ばれるようになっていた。
「男前の大将とべっぴんのおかみ」なんて僕もよくふざけて言うが、
事実、人当たりはいいし良い夫婦である。
ただ時々、「そんな事やからモテへんのよ!」などと
辛辣な言葉を頂戴することはあるが。
「いらっしゃい!あ、ごめん、テーブル一杯なんやけど?」
「カウンターでええよ。二人だけやし。」
そう言いながら彼女を席に着くように促した。
「とりあえず・・・何か飲むよね?」
「ええ、生ビールの中をもらおうかな。ノド渇いちゃった。」
そう言って両手で自分の顔を扇ぐ真似をした。
品書きを見ていると、大将が
「今日は刺身の盛り合わせがおすすめ。ええの入ったんやけど。」
と声を掛けてきたので、それも含めて5品ほど注文した。
- 31投稿者:再会26 投稿日:2003/08/20(水)17:53:38
- お疲れさまでしたぁ〜。」
ジョッキを軽くぶつけてから生ビールに口を持っていく。
心地よい炭酸の刺激が喉を通過していく。この瞬間、
「今日も一日頑張った。」という気分にさせてくれる。
「ぶは〜っ、んま〜!」
おどけてそう言ってみせると、彼女は笑いながら
「いやだ、オヤジっぽいですよ、それ。」
「どうせオヤジやからええやん?無礼講じゃ、良きにはからえ。」
僕は笑いながらそう言って再びビールを飲み始める。
ほどなく、「おすすめ」と言っていた刺身の盛り合わせが来た。
ホタテ貝の殻やら海草やらを使って飾り付けてあり、胡瓜は何やら
松か竹かを思わせるよな細工を施してあった。
「へえ、なんだかスゴイですねぇ。ふ〜ん。」
彼女が感心したように盛り付けた皿を見ていた。
僕もこんなのは初めて見た。大将が割烹かどこかに丁稚で行ってたと
いう話は聞いた事があったが、こんな「仕事」を目にするのは
「寿美屋」に来て初めてである。
- 32投稿者:再会27 投稿日:2003/08/20(水)19:43:10
- 「大将、これどないしたんよ?えらい気合入ってるやんか。」
思わず大将に訊いた。すると笑いながら、
「杉ちゃんが彼女なんて連れてくるもんやから、こっちもやっぱり
気合をいれてサービスしてみたんやけど?彼女とちゃうの?」
「彼女おらんて前から言うてますやん?もし出来たら事前に根回し・・・
って言わへんな。えっと、報告しますやんか。」
「いや、ちゃうと分かってたけど言うてみただけや。ゴメン。」
「何やの、それって?」
僕と大将のやり取りを聞いて、水谷和美は声を立てずに笑っていた。
笑うたびに胸が揺れていた。
大将はそれが気になっているのか、チラチラと彼女を見ている。
酔いが回ってきたのか、僕はかなり饒舌になっていた。
それよりも、こんな楽しい気分で飲むのはひさしぶりであった。
彼女もそのことに気づいたのか、大将に向かって
「あのぉ、杉田さんていつもこんなにお喋りなんですかぁ?なんか意外・・・」
すると大将はこう答える
「普段は無口やけどねえ、ベットの中だともっとお喋りらしいよ。」
「アホな事言うたらアカンよ」あわてて僕が割って入る。
- 33投稿者:再会28 投稿日:2003/08/20(水)20:25:01
- ふと目に付いたホタテ貝の殻を摘み上げて、大将に示して、
「これを見たら タケダ・クミコを思いださへん?」
と言ったら、大将が
「あ〜あ、酔っ払いが居るで〜、誰かつまみ出して〜。」
と、呆れたような顔をした。
「いや〜、やっぱり今日の杉田さん、変やわぁ、ヘンですぅ・・・」
彼女も呆れたような顔をしながら笑っていた。
「あれ?今のネタ、水谷さんには分からんと思ってたんやけどなあ?」
僕は言ってからしまった、と思ったがあとの祭りだった。
「いえ、別にいいんですけどネ」
そう言いながら、彼女はジョッキに口を付けた。
まあ、露骨なセクハラまがいの下ネタじゃないから、いいじゃないかと
自分の心の中で言い訳しながら、すこし反省もした。
すこし間を置いてから、彼女に切り出した。
「ところで、今日は何か相談があるって言ってたけれども何なん?」
今までずっと笑顔だった彼女の顔がすこし曇り、そしてゆっくりと話始めた。
「あの・・・・・・、私の彼氏のことなんですけども、
杉田さんて、遠距離恋愛の経験あるんですよね?ちらっと聞いたんですけど。」
- 34投稿者:再会29 投稿日:2003/08/20(水)21:01:53
- 「え?ああ・・・まあそうやけどね。でもどうだったんだろう?」
僕は独り言のような返事をした。
水谷和美の彼氏、名前は忘れたが今年の春に東京に転勤になったらしい。
細かい事は知らないが、いずれにせよ現在は「遠距離恋愛」だということは
ちょっとまえに聞いた事があった。
と言うよりも、彼氏の転勤が決まった春先なんか、端から見ても分かるくらい
元気をなくしていた様子だったのだ。
現在は、取り敢えず見た目は普通なんだが、そんなに頻繁に会える訳じゃないし
なんとか「普段は考えないように努力している」といった感じなのだろう。
「遠距離恋愛していたセンパイのですねぇ、アドバイスが聞きたいんですよ。」
彼女は僕の目を真っ直ぐ見て言った。
「いや、水谷さん、恋愛の話やったらもっと他に相談すべき人がいるんちゃう?
こんな頼りない男に相談したかて・・・・・・まあ、嬉しいけどね。」
僕は戸惑いながら答えた。そう、相談する相手を間違えている。
僕は遠距離恋愛に「失敗した」人間である。それ以前に、今となってはあれが
「恋愛」だったのかと疑問にさえ思う。
社会人になったばかりの時、僅か半年間の出来事だったのだから。
ひょっとしたら「一瞬の夢」だったのかと思ったりもする。
- 35投稿者:再会30 投稿日:2003/09/18(木)20:13:09
- 僕は、就職して初めて親元を離れた訳だったが、独り暮しではなく
会社の独身寮に入っていた。
先輩の彼女や友人たちとキャンプに行ったりとか、多勢で遊びに
行く事が多かったが、「グループ交際」的なものではなかった。
ところがある日、その中のひとりの女の子から電話があった。
「今度、ふたりだけで会ってほしい。」
・・・・・・つまり、女の子の方から「告白」された訳なんだ。
嬉しいというより、驚きと戸惑いのほうが大きかった。
いままで、いわゆる「彼女」と交際なんてした事はなかったし、
それよりも、何故その女の子が僕みたいな冴えない男を選んだのかが
不思議で仕方がなかった。
そして、 文字どうり手探りの状態で付き合い始めた。
だいたい、社会人になるまで女の子とデートなんてした事が
なかったし、最初のうちは妙に緊張してぎくしゃくしたものだった。
もちろん、「いい子だな」と前から思ってはいたが、付き合うとか
そこまでは考えたりはしていなかったのだった。
しかし、そのうち僕自身その子に強く惹かれるようになり、
3ヶ月も経つ頃には、
「ひょっとして、いや、きっとこの子が運命の女性なんだ。」
と思うようになったのだった。
- 36投稿者:再会31 投稿日:2003/09/18(木)20:13:52
- ところが災難というのは突然やってくるもので、いきなり支店長から
呼び出しがかかった。
「転勤辞令。」
頭の中が真っ白になった。この事をどう話せばいい?
独りで頭の中でシュミレーションをしているうちに一週間ちかく
経っただろうか。先輩が声を掛けて来た。
「杉田、彼女にはもう話したのか?」
実は、まだ話していないと先輩に答えると
「馬鹿か杉田?!そんな大事な事なんでさっさと言わない?
もしお前の口からじゃなくて他人から聞いたら彼女どう思う?」
腹を括って彼女に話した・・・・・・、泣かれた。
そして、
彼女の家に、彼女の両親に会いに行った。
「娘さんと、結婚を前提としたお付き合いをさせて下さい。」
当時の僕にとっては本当に一大決心だった。
親御さんも、とりあえずは反対はしなかった。
無事に彼女の両親との対談が終わった後、
「さっきの秀ちゃん、スゴクかっこ良かったよ!」
と、彼女は強く抱きついて僕にキスしてくれた。
このまま上手く行く。そう思った。
- 37投稿者:再会32 投稿日:2003/09/18(木)20:14:32
- だがしかし。
実際に離れ離れになってしまうと、会えない分だけ寂しさが募る。
僕の方は、転勤してからの職場では仕事が忙しくなり、
なかなかまとまった休みが取れなかった。
電話だけのデート。
会えないもどかしさ。
いつの頃からか彼女の声のトーン、喋りかたに違和感を感じ始めた。
電話も僕のほうから掛ける事のほうが多くなってきた。
回数も週に1回掛けるかどうかまでに減っていた。
僕の中で「いやな予感」がどんどん膨らんできたが、
「いや、そんなことは無い筈。」と否定し続けていた。
しかし、彼女から手紙が来た。
それまでに何通か来た彼女の手紙は、可愛らしい封筒と便箋に
丸っこい文字で書かれていたものだったのだが、
今回の手紙は事務用の封筒に、僕の住所と名前が比較的かちっとした
楷書で書かれてあった。
封を切る前に「最後の手紙だな」と直感した。
- 38投稿者:再会33 投稿日:2003/09/18(木)20:15:15
秀ちゃんへ
実はこっちで好きな人が出来てその人とお付き合いしてます
秀ちゃんの事はいまでも大好きです
でも離れているとさびしくて・・・
本当にワガママでごめんなさい
短い、別れの手紙だった。
「別れの場面は いつもいつも 立ち去る者だけが 美しい」
とあるシンガー・ソングライターの失恋唄が頭をよぎった。
僕は短い返事を書いた。
遠くから君をしばり続けてごめん。
絶対に幸せになるんだよ。
僕が出来る精一杯の事だった。未練が無いと言ったら大嘘だ。
大の男が、涙も枯れんばかりに嗚咽したのだから。
正直に伝えてくれた彼女はある意味すごく誠実だと思うし、
「僕を好きになってくれた」事に感謝すらしている。
- 39投稿者:再会34 投稿日:2003/09/18(木)20:16:00
- 「杉田さん、何だか目が遠くを見てますけど大丈夫ですかぁ?」
水谷和美が僕の目を覗きこむようにして見ていた。
いや、ちょっとね。そう言いながら僕はジョッキの底に残ったビールを
飲み干してもう一杯注文した。
人生に「もし」というのは無いのだが、もし僕の転勤がなければ
どうなっていただろうか?今頃はあの子と結婚していて、
幼稚園に行ってるくらいの子供がいるのかもしれない。
「まあ、昔の話はさておき。」
誰に言うわけでもなく、前置きを言うと話を始めた。
「一口に『遠距離恋愛』とか言っても、人それぞれやんか?
まず・・・・・・彼氏とはどういう付き合いをしてたんよ?」
僕はざっくばらんな口調で彼女に訊いてみた。
「あの・・・あたし、まだエッチってしたことないんです。」
「ブフッ!」
危うくビールを吹き出しそうになるのをおしぼりで口を押さえたが
鼻の奥の変なところにビールが行ってしまったようだ。
- 40投稿者:再会35 投稿日:2003/09/18(木)20:17:18
- 「いや、あのねぇ『既に結婚を視野に入れてる』とかそういう意味よ。」
僕は咳込むのを押さえながら彼女に言った。
「あ、あたしヘンな事いっちゃった?!ごめんなさい!」
彼女は耳まで真っ赤になっていた。
「いやあ、酒の上の話やしねぇ、まあしかしアレやなホンマに。」
僕は意味不明の相槌をうっていたが、頭の中では、水谷和美は未だ
男を知らないのか、とよからぬ妄想を始めていた。
彼女自身が奥手なのかそれとも身持ちがよっぽど堅いのか・・・
すると、服の上からでも分かる形のいい大きな胸は未だ誰の手にも
触れられていないのだろうか?
フラッシュ・バックのように、あの「最悪の初対面」の時の光景、
あの彼女の白い、陶器を連想させる下半身を思い出し、
僕は体の一部が堅くなるのを自覚して赤面した。
「あらあら、なんちゅう純情なカップルやねんな?
今時珍しいで、そんな話しで固まってまうなんて。」
寿美屋の大将が呆れたように口を出してきた。
- 41投稿者:再開36 投稿日:2003/10/21(火)18:38:39
- 「いや、そうやなくてね、一応同じ職場なわけやんか?僕としては
セクハラにならんように極力気を付けてるんよ。」
僕は話を逸らせる為に、大将と意味の無い話を始めようと試みた。
「そうそう、社内研修で『セクハラ』について、いうのがあったけど
なんか、お茶くみさせてもアカンとか色々あってねぇ。」
「へえ、そんなんもセクハラになんの?」と大将。
なんとか話を逸らし、時間を稼いで間を置くことが出来た。
彼女に改めて彼氏との経過と現状に就いて訊いてみたのだが、
どうやら「結婚する」という確約みたいなものはしてないらしい。
「で、水谷さん自身はどうしたいんよ?」
僕は単刀直入に質問した。
彼女は黙ってジョッキの中から現れては消える小さな泡を見つめていたが、
小さく「わからないです。」と答えた。
「でもさ、結婚したい、したくない。すぐにあっちへ行きたい、
もうちょっと離れたままでいる、とかは考えてるんやろ?」
ちょっと詰問口調になり、しまったかなと思ったが、彼女の本心を
聞き出さない事には話の進めようがなかった。
- 42投稿者:再開37 投稿日:2003/10/21(火)18:39:37
- 彼女は顔を僕の方に向けると、堰を切ったように話し始めた。
「あの・・・・・・何が分からないって、彼の私に対する気持ちが
分からないんですよ。私のことを本当に必要としてるのか・・・・・・
今まで、会いに行くのもあたしばっかりだし、彼の方は
『帰省したついでに』5月の連休に会い来ただけだし・・・・・・」
彼氏に対する不満や愚痴を一通り話した後、彼女はビールで喉を
潤してこう言った。
「でも、本当に分からないのはあたし自身の気持ちかも。」
今にも泣き出しそうな彼女の横顔を見ていると、昔僕が付き合っていた
彼女もこんなに苦しんでいたのか、と胸が押し潰されるような気持ちになった。
「雨に濡れた寂しげな子犬」なんて表現が巷で流行ったことがあったが
僕はそんなふうに見える彼女を抱きしめたい、と思った。
「あ〜、なんか辛気くさくなっちゃっいましたねぇ、あたし泣き上戸じゃ
ないですから心配しなくていいですよぉ。すいません、おかわり!」
彼女はおどけてそう言うと、僕の分のビールも注文した。
「いや、僕はもうだいぶ飲んだからもういいんやけどなぁ・・・」
「いいじゃないですか、別に酔わせて襲ったりしませんよ。」
彼女は笑いながら言った。
- 43投稿者:再開38 投稿日:2003/10/21(火)18:40:39
- 「で、センパイからのアドバイスは?」
彼女は顔を近づけて僕の眼を覗き込むようにして訊いてきた。
心臓が飛び出した、というよりなんだかハートを鷲掴みされたような気がした。
いや、アルコールが廻ってるせいだと言い聞かせて椅子に座りなおす。
「ええと、そうやねぇ・・・直接会って、彼氏ととことん話してみたら?
『これから自分たちはどうするのか』って、そうすれば『自分自身の』
本当の気持ちってのも見えてくるんちやう?」
この言葉、昔の自分自身にも言ってやりたいと思った。
「わかりました、ありがとうございますぅ。」
彼女は微笑んで小さくおじぎをした。
彼女がお手洗いに行ってる間に、大将に勘定をお願いした。
「まいどおおきに。しかし杉ちゃん、ええ娘やないの?」
大将が小声で話してきた。
「いや、でも彼氏おるんよ。さっきから言うてるけど。」
「お似合いやと思うんやけどなあ、勿体無い。」
彼女が戻ってきたのでそろそろ帰ろうか、と声を掛けた。
- 44投稿者:再開39 投稿日:2003/10/21(火)18:42:09
- 彼女は腕時計に目をやり「まあ、こんな時間?」と驚く。
二人ならんで「寿美屋」出て歩き始めた。
「あの、幾らでした?割りカンしましょ」
彼女が財布を取り出そうとした。
「いや、きょうは僕のおごりで。」
「でも、あたしから誘ったんですから最低でも割りカンですよぉ。」
彼女はちょっと膨れっ面をしてみせた。可愛い、と思った。
「うーん、割りカンはいいからチューしてくれる?
それでチャラいうことにしよか?」
彼女は笑いながら頬を染めた。
「今日は僕のおごりで、今度は水谷さんが中華のフルコースとかおごってよ。」
そう続けると、それじゃ今日はご馳走様、と小声で答えた。
「水谷さん、まだ電車は大丈夫なん?終電間に合う?」
横の彼女に話しかけた。
「だいじょーぶ、まだまだ余裕ですよぉ。」
そう答えた後、彼女はつまずきそうになって僕の腕にしがみついた。
胸が押しつけられる。なんも言えぬ圧迫感と弾力感を僕に与え、
僕は文字どうり理性を失いそうになった。
- 45投稿者:再開40 投稿日:2003/10/21(火)18:43:08
- 「大丈夫、って君が大丈夫ちゃうやんか。」
僕は理性を保とうと、大げさなリアクションをして頭をはたく真似をした。
「ちょっとつまずきそうになっただけですぅ。大丈夫!」
そう言いながら彼女はしばらく僕の腕を掴んだまま歩いた。
やっぱり酔っているのかもしれない、と思った。
地下鉄で梅田まで出たあと、彼女を阪急電車の駅まで送って行く。
「杉田さんは阪神電車でしたよね?」
「いいからいいから、とにかく阪急の方へ行こ。」
雑踏の中を肩を並べて歩く。そういえばあの娘はもうちょっと
背が低かったよな、と昔を思い出した。
今、他の人から見れば仲のいいカップルに見えているんだろうな。
水谷和美の横顔をちらっと見て何故か一抹の寂しさを感じた。
エスカレーターで2階にある阪急梅田駅に上がる。
- 46投稿者:再開41 投稿日:2003/10/21(火)18:53:29
- 「じゃ、きょうはどうも有難うございましたぁ。」
彼女がぺこりとお辞儀をした。
「あ、水谷さんそれから最後にひとつ。」
僕は突然思い出した。
「例え大人数であっても『男の人と飲みに行った』なんて事を
彼氏に言うたらアカンよ・・・・・・誤解の元やからね。
彼氏を不安にさせたら、それこそ疑心暗鬼になってまうからね。」
彼女は頷いた。
「じゃあ、今日の事はホントに二人だけの秘密ですね?」
そう言うと軽く会釈をして改札の向こうへ消えていった。
帰りの電車の中でぼんやりと振られたあの娘のことを思い出していた。
彼女もこんな風に誰かと相談していたのだろうか。
転勤して遠くへ行ってしまって、一度も会いに来る事もしない
酷い男だと。「結婚を前提」と言ってたくせに何にも進展させて
くれない頼りない男だと・・・・・・
「楽しく飲んでた筈だったんだけどな、最後は自分の悔いと懺悔か。」
電車の窓に映った自分に自嘲的に笑って見せた。
- 47投稿者:再会42 投稿日:2004/01/19(月)20:53:36
- OB会は9月の最終の日曜日に催される事になっていた。
早めに出欠の返事を出さねば、と思っていたのだが
そのままかなりの日数が過ぎていた。
休みは取れるだろうが、ただ一つ気になっているのは
9月末と言えば半期の仮決算という仕事があるわけで
なすべき仕事の量が普段よりも増えるのである。
支店長がせっかちなのか僕の仕事が遅いのか、おそらくは
その両方なんだろうが、支店長からせっつかれることはよくあった。
しかし、ここ最近はそれも「皆無」に等しい。
勿論、僕の仕事能率が飛躍的に上がった訳ではなく
いわゆる「サービス残業」でカバーしてるのであるが・・・・・・
「深夜残業でカバーして、堂々と休めばいいじゃないか。
それより、日曜日は本来『公休』じゃないか。」
どうしてこんな単純な事をさっさと決断できなかったのだろう?
僕は職場の自分の机の引出しから案内状の封書を取り出すと
返信用のハガキの『出席』に印を付けた。
今日の帰りがけにでもポストへ放りこめばいい。
ついに出席を「確定」出来たので、少々浮かれた気分になってきた。
- 48投稿者:再会43 投稿日:2004/01/19(月)20:55:24
- 水谷和美とは、あれ以来殆ど会話を交わす事がなかったが
珍しく彼女の方から声を掛けて来た。
就業時間はとっくに過ぎていたが彼女もまだ仕事をしていた。
既に社内には僕達二人の他は誰もいなかったので
彼女はくだけた口調でこう言った。
「ねえ杉田さん、まだ今日はかかりそうなんですかぁ?」
僕が「え?」と言う顔をして彼女のほうを向くと
彼女は椅子に座ったままで、こちらの方を向いていた。
制服のスカートからのぞいている膝小僧が可愛らしかった。
「ええと。早く切り上げる事もできるけど、どないしたん?」
無意識にスカートの奥へ目線が行きそうになったので
あわてて彼女の顔を見て答えた。
「無理に切り上げるんやったら何だか悪いですし・・・」
そう言いながら彼女は僕の隣の席に座った。
「簡単に話ちゃいますけど、今度はっきり彼に言おうと思うんです。」
すこし間を置いてから話し続ける。
「前に杉田さん言うてはりましたよね?とことん話ししたらって・・・
彼にズバリ、聞いてみます。『どう思ってるのか』って。」
窓の外に目を向けながら話す彼女の顔は、意外にも凛々しかった。
それだけ覚悟を決めたという表れなのだろうか。
- 49投稿者:再会44 投稿日:2004/01/19(月)20:56:31
- 「じゃあ、直接会って直に訊いてみるんやね?」
「ええ、今月末の日曜日にね。」
僕の記憶では、というか僕が聞いた話の流れでは
ほぼ4ヶ月ぶりくらいに会う筈である。
普通、好きな人と会うのであれば明るい表情になるものだが
今回の彼女の場合、思いつめた風にさえ見えた。
「あのさ、こないだ僕が言うたけど別に急がんでもええんちゃうかな
彼氏のほうも転勤で職場変わってからの仕事や生活の
ペースがなかなか決まってないかも知れへんし・・・」
こう彼女に言いながら、まるで過去の自分の言い訳をしてるような
気がした。そう、彼を庇うと言うよりも昔の自分を弁護するかのように。
「でも、もう半年も経ちましたからねえ。それに、彼の気持ちと言うより
彼に直接会って、もう一度自分自身の気持ちを確かめたいんです。」
彼女はきっぱりと言った。
「そうなんや・・・でもなぁ。」
彼女にもう一度、急がなくてもいいのではと言いかけると
「もう決めちゃいました。何時までも不安な気持ちでは居たくないんです。」
そう言って僕の目を見つめた後彼女は微笑むと、おじゃましました、
と小さく言ってから自分の席に戻っていった。
- 50投稿者:再会45 投稿日:2004/01/19(月)20:57:11
- 「上手いこといけば、それこそすぐに寿退社、てなことになるのかな。」
僕はデスクの上のパソコンのキーボードを無機質な音を立てて叩きながら
ぼんやりと考えていた。
「自分自身の気持ちを確かめたい。」っていうのはどういう意味だろう。
水谷和美は自分が本当に彼のことを好きかどうか分からないのか、
そもそも「好き」って何だろう?
「すごく好き同志」が結婚した筈なのに何故簡単に離婚するんだろう。
どうでも良いような考えが頭を巡り、時間は結構過ぎていた。
彼女はあれからすぐに帰宅していたのでもう職場には自分独りだった。
「まあ、悩めるいう事は好きな訳であってやな・・・」
「でもまあ、心いうのは流れる水のごとし、とも言うわなぁ。」
ぶつぶつ独り言を言いつつ黙々と書類を打ちこむ。
時計を見てそろそろ切り上げて帰ろうかと思った。
背もたれに仰け反って大きく伸びをしたら背骨がボキボキ音を立てた。
「ま、所詮は他人事やしな。」
そう呟くと水谷和美の事を考えることを止めた。
- 51投稿者:再会46 投稿日:2004/01/19(月)20:57:54
- 家へ辿りつくまでに途中のポストにハガキを投函した。
取り敢えず、市島と須藤には連絡をしてみようか。
彼らがまだ出欠の返事を出していないなら誘えばいいし
ひょっとしたら先輩で誰が来るかとか知ってるかも知れない。
須藤はコーラス部部長をしていたので先輩後輩とも
交流が深かったと記憶している。
なんせ彼はマメな男だった。しかし時にはそれが鼻につくというか
「それ、そこまですんのか?」みたいな事もあって
それを市島は「あいつは何か好かんのや!」と言っていた。
ところが、よくつるんでいたし、本人を目の前にして
「お前のそういう所が嫌いなんじゃあ!」と言い放っていた。
まあ、結局は仲が良かったのだが。
須藤の所へ電話をすると奥さんが出た。
「私、○○大学コーラス部でお世話になった杉田と申しますが・・・」
「あら、いま帰ったところですのよ、少々お待ちくださいませ。」
きれいな標準語のアクセントだった。確か須藤の奥さんも関西人だった
筈なんだがと違和感を覚える。
いや、でも良い所の「お嬢さん育ち」だったかと思い出した。
- 52投稿者:再会47 投稿日:2004/01/19(月)20:58:37
- 「おう、何や杉ちゃん久しぶりやんか、どないしたんよ。」
比較的スローな喋りかたのよく通る声が返ってきた。
「ボチボチやってるよ、仕事のほうは、まあ・・・・」
近況報告がてら仕事や業界の話を一通りした後、本題に移る。
「でやな、OB会はどないすんの?俺はいくけど。」
こう言うと電話口の向こうでしばらくしてから
「いや、俺なあ、行きたくても行かれへんねん。」
といかにも残念、といった返事が帰ってきた。
「何やねん?仕事か?」
「ああ、ちょっとその日は出張が入っていてなあ・・・」
仕事が入って入るのなら仕方ない。
「出張て何処よ、東京とかあっちのほうか?」
見当もつかないので適当に地名を挙げると
「あのな。ドイツやねん。」
「ド、ドイツ?!ドイツ言うたらあのドイツ?
いっひ れるねん どいっちぇ。のドイツかいな。」
旅行でハワイにすらに行った事のない僕にとっては
外国に、しかも仕事で行くなんて全く想像もつかなかった。
- 53投稿者:再会48 投稿日:2004/07/12(月)18:14:46
- 「うち、外資系やからなぁ、本社もあっちな訳やし・・・」
決して自ら進んで「出張」に行くのじゃなという口ぶりで
入社してから現在の部署に転属されるまでの経過を
愚痴っぽく話した。
「ドイツに行くのんやったらドイツ語喋らなあかんのやろ?
大丈夫かいな、ちゃんと会話とか出来んのか?」
一般教養の必須科目でドイツ語は学んだとは言え、とてもじゃないが
「会話できる」レベルのものではなかった。
須藤は僕と違って「NHKドイツ語講座」を視聴してたらしいが
それでもたったの1年間でそれだけ上達してたとは思えない。
「会社入ってから、ドイツ語やり直したとか?」
「いやぁ、ドイツ語なんか話さへんよ。全部英語やからな。」
心配するな、という風に須藤は答えた。
どうやら、世界の共通語は英語なのかもしれない。
「残念やけど、皆に宜しく言うといて。」
OB会は欠席する、と未練がましく念を押すように
僕に言ってから須藤は電話を切った。
- 54投稿者:再会49 投稿日:2004/07/12(月)18:42:23
- これで「OB会に誰が来るのか知ってるかも知れない」人物が消えてしまった。
同期の女の子にいきなり電話するのもなんだか気が引けた。
「ダメもと」で市島に聞いてみることにする。
「もしもし、市島さんのお宅でしょうか?」
「おう、杉やんか。何ンやねん、かしこまって?」
「OB会は行くのやろ?」
「一応、『出席』でだしたけど・・・・・・分からん!」
「何それ?ドタキャンかいな?」
どうやら、「知ってる人が来るのかどうか」で、まだ引っかかってるようだ。
確かに、行ってみたはいいけども、年代の違うOBばっかりで
独りだけで浮いてしまうことがあるかもしれない。
それよりも、市島に「誰が来るのか知ってるか」という質問をする事自体が
最初からナンセンスだった訳だ。
「すくなくとも俺は行くからな・・・だから君も来たまえ!」
おどけた口調で市島に言うと、電話の向こうで
「わかったわかった」と相槌を打った。
- 55投稿者:ぃゃ… 投稿日:ぃゃ…
- ぃゃ…
- 56投稿者:再会50 投稿日:2004/07/12(月)20:52:22
- 月末が近づくにつれ、処理すべき書類との格闘はさらに激しさを増す。
半期の仮決算月だから尚更である。
しかし、ここ数年の「経費削減」のせいもあって、営業部からの
いわゆる「接待経費の書類」はかなり少なくなっているので、処理する量は
昔に比べればかなり減ってると言ってもいいだろう。
まあ、その他の書類等は相変わらず減っていないのだが・・・
とりあえず、サービス残業も加えて順調に仕事はこなせているし
、どうやら大手を振って休めそうである。
「杉田さん、まだかかるんですかぁ?」
水谷和美が僕に声を掛けて来た。
「いや、まあ、ええと、何か?」
この半月程は、社内で一言も喋らないほど「集中して」仕事していたので
突然話しかけられて、一瞬返事に詰まった。
「最近、ずいぶん根詰めて仕事してはるじゃないですか・・・息抜きしません?」
「え?いやまぁそうやねぇ・・・」
「それじゃ、15分後にここを出ましょ。
『ハナキン』なんだからたまには羽を伸ばさないと・・・」
彼女は半ば強引に決めると更衣室の方へ姿を消した。
- 57投稿者:再会51 投稿日:2005/05/30(月)22:52:55
- デスクのパソコンの電源を落とす前に、メールのチェックをしてみた。
「新着メールはありません」
まあ、返信メールを打ちこむ時間がそんなにないからよかった。
あわてて文章をでっちあげてメールなんかしたら、誤字脱字だらけになるだろう。
電源を落としてデスクの上を片付けていると、身支度を終えた水谷和美が
やって来た。
「おまたせ、じゃあ行きましょ。」
彼女が先に立って歩きだした。今日は彼女の方がリードするような具合で
なんだか少し新鮮に感じた。
「杉田さん、焼き鳥屋さんでいいですかぁ?」
ああ、焼き鳥はしばらくぶりだからいいね、と相槌を打つか打たないかのうちに
二人揃って縄のれんをくぐっていた。
「えっと、杉田さん飲み物は?」
「生ビールがいいな。」
「すいませ〜ん、生ふたつおねがいしまぁす。」
なんだかいつもと勝手が違うので妙な気分だ。
いや、彼女のテンションがいつになく高かった。どういうのだろうか、
から元気というかなんというか、違和感すら感じた。
- 58投稿者:再会52 投稿日:2005/05/30(月)23:16:27
- しばらくは、取り留めの無い芸能人のゴシップやニュースの話をしていた。
僕は焼き鳥とビールでかなりお腹が大きくなってきていたのだが
それでも彼女はまだまだいけるらしく、焼き鳥を追加注文した。
会話が途切れた。
ここで「いま、天使が通ったよ」なんて言うのがいつものパターンだが。
「あの・・・水谷さん、今日は何だかしれないけど、」
「ごめんなさいね」
僕が聞こうとした事を察したのか即座に答えた。
「また杉田さんに話を聞いてもらおうかと思ってたんですけど・・・
今度の日曜日に彼のところに行く事にしてたんですよ。
でも何だか妙にテンション上がっちゃって・・・ゴメンなさいね。」
「いや、そんなん全然気にせんでええよ」
そうか、以前言ってた「決着をつけに」行くのか。
そりゃ情緒不安定にもなるだろう。
「で、やっぱり彼に言うてみんの?」
おそるおそる尋ねてみた。
「勿論です。腹は括ってますから・・・って言うかもう決めちゃってるから
杉田さんに相談も何もないんですよねぇ。あ、決意表明ですよ決意表明。
『水谷、行きまぁーす!』なんて。」
- 59投稿者:再会53 投稿日:2005/05/30(月)23:35:21
- 彼女はおどけてそう言って見せた。
だが、僕の目には強がっているようにしか見えなかった。
おそらく彼女は、結果的に自分で自分の恋愛に幕を引くのだろう。
彼女自身、「終わりだ」ともう感じている筈だ。
彼女がどの程度、彼の事をまだ思っているのかは分からないが
ひとつ端から見て分かるのは、彼の気持ちはもう水谷和美から離れている。
それがどれくらいなのかは分からないが。
僕は「振られた側」の人間だったから、もし彼女が振られたとしても
多少は気持ちは分かるだろう。
しかし、「自ら振られに行く」ような結果になるような行動を起こす事は
とても出来ない。いや、向こうから「言ってくれるのを待つ」ことしか
出来ないだろう。
つまり、僕は「ずるい」人間なんだろう。
「なぁに杉田さんが真剣になってるんですかぁ?行くのは私ですよぉ」
彼女はそう言いながら僕の肩を軽く叩いた。
「そやな。」
笑って見せてから、他の話題に移った。
- 60投稿者:再会54 投稿日:2006/04/10(月)20:56:23
- ふたりで、まるでカラ騒ぎのような時間をそれから過ごす。
僕自身は、「楽しい時間」を過ごせたことに間違いなかった。
ただひとつ、自分の中でひっかかっていたのは
水谷和美が今の恋愛に終止符を打つ事を、どこかで期待している
ということだ。
……人の不幸を望んでいる? いや、そんなんじゃないだろう。
そんな事をうっすら思いながら、彼女を梅田駅まで見送った。
「それじゃ、おやすみなさぁい!」
彼女は改札をくぐった後、振り返って大きな声で言った。
僕は軽く手を振って応える。
休みが明けて出社して来た時、彼女はどんな顔をして
出てくるのだろうか。
そして、彼女が彼氏と何ヶ月ぶりかで再会している時に
自分は何年かぶりで、大学のコーラス部の先輩、後輩と
おそらく、喜び合いながらの再会をすることになる。
別にどうという事はないのだが、何だかモヤモヤした気分だった。
- 61投稿者:再会55 投稿日:2006/07/11(火)19:15:34
- OB会当日の日曜日の朝。
どう言うわけだか、休みの日の朝はとんでもなく早い時間に
目が覚めたりする。時計を見ると5時を廻ったところだった。
二度寝しようかと思ったが、妙に目が冴えていた。
布団から出て窓のブラインドを指で開いて外を見た。快晴のようだ。
「よし、行くか。久しぶりに。」
僕は独り言を言うと、オーディオ・セットの上にオブジェのように
置いてあるヘルメットを手に取った。
一番最近にバイクに乗ったのは、ゴールデンウイークの時だ。
4ヶ月以上も動かしていないので、すぐにエンジンが掛かるかどうか
微妙なところだ。
家の敷地内に銀色のカバーを掛けた僕の愛車がある。
カバーを外すと、うっすらと埃を被っているように見えた。
キーを廻すとポジションランプが点灯したが、あまり明るく見えない。
バッテリーが心配なので試しにセルボタンを押してみる。
キュル、キュル…
スターターが弱々しく廻った。すぐにセルボタンから指を離す。
「こりゃ手際良くやらなきゃダメかもわからんな」
- 62投稿者:再会56 投稿日:2006/07/11(火)19:33:38
- 車戴工具の六角レンチを取り出す。
キャブレターのフロートチャンバーの下にあるドレンボルトを緩めた。
ボルトの付け根からガソリンがぽたぽた落ちてきた。
そのガソリンを指に付けて臭いを嗅いでみる。
思ったとおり、灯油のような臭いがし、指に息を噴きつけても
指先からガソリンはすぐに蒸発しなかった。
キャブレター内のガソリンが劣化してるという事だ。
四気筒分すべてのキャブレターのドレンボルトを緩めて
ガソリンを空にした。
ドレンボルトを締めなおす。
そして燃料コックを「PRI(プライマリ)」の位置に廻した。
これでガソリンタンク内の新しいガソリンがキャブレター内に
スムーズに流れこむ。
チョークレバーを引き、クラッチを握って
3速にシフトペダルを蹴り上げた、通常、押し掛けを行う場合は
2速でするのが普通だが、3速のほうが具合がいい。
- 63投稿者:再会57 投稿日:2006/07/11(火)19:53:03
- ゆっくりと大通りに向かって、バイクを押し歩く。
ブレーキのディスクローターにサビが浮いていたせいか
フロント廻りからシャリシャリという雑音がしている。
「よし」
力を込めて地面を蹴り出す。勢いをつけたところで
クラッチを離す。
ボボッ…ボボボボ
車体に抵抗がかかり、エンジンが咳込んだ。
しかしまだエンジンは掛からず、今にも止まりそうになった時
素早くクラッチを切って、再び地面を蹴って速度を上げる。
そして、2回目にクラッチを離すとエンジンは目を覚まし
タコメーターは6,000回転まですぐに撥ねあがり、早朝の街に
排気音が遠慮無く響いた。
「意外にあっけなく掛かったな」
チョークレバーを戻して通常のアイドリングまで回転数を落とした。
そしてガソリンコックを「ON」の位置に戻しておく。
- 64投稿者:再会58 投稿日:2006/07/11(火)20:06:03
- 大通りの路肩に停めてしばらく暖機運転をする。
その横で僕はストレッチ運動をしていた。
街路樹でスズメがさえずっていて、新聞配達を終えた若い男が
自転車で通りすぎる。
まだ街は静かだ。
僕はヘルメットを被り、グローブを着けた。
この「グローブを着ける瞬間」がぼくはたまらなく好きだ。
この時、自分のなかのスイッチが入る、というか
「いまから『非日常の世界』へ行く」と感じるからだ。
バイクに跨ると、ゆっくりと走らせ始めた。そう、ゆっくりと…
早朝だけあって、車も殆ど走っていない。
平日ならこんな時間でも長距離トラックが走ってることがあるが
日曜の国道2号線はガラ空きだ。
「ちょっとくらいなら、いいよな?」
回転数を上げ、パワーバンドに入った時の加速感を楽しむ。
ガラガラの対向車線を、もの凄いスピードで擦れ違う
リッターバイクが数台いた。
この時間、考える事はみな同じだ。
- 65投稿者:再会59 投稿日:2006/07/11(火)20:33:09
- 国道2号線をしばらく西へ走った後、右折した。
目的地は六甲山。
住宅街を抜けていくと、やがてあちらこちらに畑が見えてきた。
そのうち「山の匂い」が鼻をくすぐりはじめて、有料トンネルへの
分岐を示す看板が見えてくる。
信号を左折して道が大きく右にカーブした先に、路肩を
広く取ったスペースがある。ここはもう六甲山の麓だ。
僕はいつものように、そこにバイクを停めて小休止した。
もう一度念入りにストレッチする。
「まあ、熱くなりすぎんことやな」
誰に言うでもなく呟いてからバイクに跨って走り出した。
もっと若いうちからバイクに乗っていればな、と時どき思う。
六甲で走り始めてから何とか「ちょっと遅い」という程度になった。
いや、走りだしたころは「ど下手糞」だった訳なんだが……
でも、若いころだったらもっと無茶をして大怪我をしたかもしれない。
そんな事をぼんやり考えているうちに急勾配の「ダブルヘアピン」が
近づいてきた。僕は丁寧にブレーキングして舐めるように廻っていった。
- 66投稿者:再会60 投稿日:2006/07/11(火)20:51:26
- その後の、やや長い直線を駆け上がると、急に気温が下がってきた。
やはり山の上は肌寒いようだ。
木陰と日向では体感温度がかなり違うように感じる。
厚手のジャケットを羽織ってきたほうが良かったかもしれない。
やがて六甲山の頂上の「一軒茶屋」に着いた。
ここで小休止するのも、いつものパターンだった。
路肩にバイクを停めると、取り敢えずヘルメットを脱いだ。
山の風と匂いが心地よかった。そこから下界を見下ろすと、
どんよりとした空気の海の底に、目覚めたばかりの街があった。
「そう言えば、大学1年生のとき自転車でここまで来たんだよな」
大学1年の夏休みのある日、独りで来たのだ。
とにかく小さい頃から「2輪」が好きだったので、自転車も
ドロップハンドルのロードレーサータイプに乗っていたのだ。
後に同じゼミになったサイクリング部の知人にこの話をしたら
「なんで杉ちゃんもうちのクラブに入らなかったんよ?」
と言われたことがあった。
- 67投稿者:再会61 投稿日:2006/07/11(火)21:12:15
- それよりも、大学へ入ってからすぐにバイクの免許を取ったが
バイクに乗るようになったのは、社会人になってからだ。
もし、学生時代にバイクを手に入れていたらどうなっていただろう?
もっと違う学生生活を送っていたのだろうか。
例えば、コーラス部なんかに入ることはなかったかもしれないし
勉強以外の事はすべて、バイクを中心としてたんじゃなかろうか。
……こんなことを幾ら考え、想像したってなんの意味も無い。
再びヘルメットを被ると、「走り屋」たちが居る道に向かっていった。
ちょっと前はヘルメットに「耳」や「アンテナ」を付けたツナギ姿の
小僧たちが膝を擦ってたものだが、今はリッターバイクに乗った
「高速ツアラー」たちが殆どだ。
僕はアベレージスピードを上げて右へ左へをマシンを寝かせこむ。
ステアリング操作、サスの動き、加重移動。これらがバッチリ決まると
マシンが鮮やかに切り返しできる。これがバイクの醍醐味。
しかし、程なく腕と脚に疲れが出てくる。
「運動不足、いや、歳はとりたくないもんやなぁ」
アベレージスピードを落とすと、帰宅の途についた。
まだ朝の早い時間とはいえ、準備はちゃんとしておかねばなるまい。
- 68投稿者:再会62 投稿日:2007/11/12(月)20:43:00
- 下りのストレート。当たり前だがスピードが乗りやすい。
スロットルを開ければ、排気量の大きなパワーのあるバイクに
乗っているような錯覚がする。文字通り胸のすく加速感。
だが、当然ブレーキはシビアになる。
必要以上に、前に荷重がかかり前のめりになろうとする上体を
支えるのも結構大変だ。
ブレーキレバーを強く握りこみ、フローティング・マウントされた
ディスクローターが「ミュー」と悲鳴のような音を立てて
なんとか平地と同じような感じで減速、というところだ。
そして、下りのカーブでは荷重バランスが前よりとなるし
乗車姿勢も平地や上りとは異なるので、操るのが難しくなる。
僕は未だに下りのコーナーは苦手だ。
急勾配のダブルヘアピン。
後続車もいなかったので、それこそ歩くほどのスピードまで
減速してゆっくりと慎重に廻っていった。
ここを過ぎれば、あとはもう大した場所はない。
そう思いながら、ふたたびアベレージスピードを上げた頃には
気温もだいぶ上がってきたようだった。
- 69投稿者:再会63 投稿日:2007/11/12(月)20:45:28
- 街中を家に向けてバイクを走らせていると、少し汗ばんできた。
今日もかなり暑くなるのか?
ましてや、京都はこっちよりも気温が高いことの方が多いし
スーツなんか着こんで行かない方がいいかもしれない。
今日の格好をあれこれ思案しなおしてるうちに家の前に着いた。
フルフェイスのヘルメットを脱ぐと頭が蒸れていることを自覚した。
髪型はぺしゃんこに潰れて河童のようになっているようだ。
まあ、いつものことだが。
家に入ると、母が慌しく出かける支度をしていた。
「なんや、外に出てとったんかいな。
あんたも昼から出掛けるのやろ、戸締りちゃんとしといてよ。」
母は、出かけるときになって何で電話が掛かって来るのやろ、とか
あー、いっつも時間ギリギリになるわ、とか誰に言うでなく
声に出して家の中をひと通りゴソゴソした後、
「あんた、晩ご飯はどないすんの?」と訊いてきた。
ちょっと考えてから
「食べてくるかも、いや、そうした方がええやろ?」
そう答えたら、それじゃそうしておいて、と言い残して
母は出掛けて行った。
- 70投稿者:再会64 投稿日:2007/11/12(月)20:50:31
- 誰も居ないリビングで、テレビを眺めてぼんやり時間潰ししてると
うつらうつらしていた。
気がつくと、いつの間にか結構時間が経っていた。
シャワーを浴びてから身支度する。堅苦しいスーツはやめてカジュアルな
格好で行こう……失礼にはならない程度で。
下は色の濃いジーンズで上はノーネクタイ、夏物のジャケットを選んだ。
暑ければジャッケットを脱いで肩にでもかければいい。
関西地方は全国的に快晴らしかったので、折りたたみ傘を
持っていかずに小さなセカンドバックを手にして家を出た。
大阪に出てから先はJRに乗り換えだ。
今まで何回この路線を行き来したのだろうか。
学生時代の通学電車のことを思い出す。よくまあ、下宿しないで
4年間通ったものだ。片道1時間半はかかっていたのだ。
電車内の時間てのを、もっと有効に活用すべきだったなと今になって
思う。英語の予習や読書に充てていたが、寝てるほうが多かったから。
車窓から見覚えのある風景が見える。
記憶が呼び覚まされる。
秋には稲刈りが終わったあぜ道に、赤い彼岸花が咲いていたっけ。
大雪が降って電車が遅れたとき、子供がつくったのか雪だるまを見かけたし…
- 71投稿者:再会65 投稿日:2007/11/12(月)21:21:38
- 通学途中の想い出に浸りながら外を見てるうちに京都に着いた。
京都駅から地下鉄に乗りかえる。
思ったよりも少し早く着いたので、周辺を少し散策したのだが
さすがに京都は暑く、汗はあまりかかない体質の僕でも
脇の下に汗をかいてるのがはっきりわかったので散策は切り上げて
会場になっているホテルへ入った。
ひんやりと涼しいホテルの中。
入った瞬間に、何やら妙な緊張感が自分の中に走った。
いや、緊張感というより期待感、と言ったほうが良いか…
会場は3階の宴会場のひとつ。
今日は結婚式の披露宴も多いようだった。幾つかの受け付けを
見渡した後、会場を見つけた。
受け付けには三人ほど座っていた。
どうやら上の方の卒業年代の先輩方らしかった。
「どうも、こんにちは……お世話になります…」
そう言いながら、案内状を出して受付をしようとしたら
「おぉ、スギ!! 久しぶりじゃんか!」
と、真ん中の男の人が声をあげた。
- 72投稿者:再会66 投稿日:2007/11/12(月)21:40:07
- 額の広い、ちょっぴりおなかの出た男の人だったが。
「え?、ああッ! は、橋本先輩?!」
僕はわざと大袈裟にしてるんじゃないかと、思われてしまう位
本当に驚いてしまった。
学生時代は、下級生の女子部員の人気ナンバーワンだった先輩。
美声の持ち主であることはもちろんだが、爽やかな風貌と
引き締まった体は同性の僕からみても憧れたものだった。
それが、髪の薄い太った中年へと変貌しつつある途上に……
「橋本先輩、えらい変わらはったってゆーか…えーと」
なんとか当たり障りのない言葉を選ぼうとしたら
「結婚したらなぁ、こうなってしまうんだよ。ハハハハ」
先輩は笑いながら自分のお腹をさすって見せた。
「幸せ太り、ってやつですよね。いいですやん、幸せそうで」
頭の事は触れず、体型のことのみに話題を振った。
「そのうち、俺も市島みたいな体型になるかもな……
あいつも今日来てるで」
- 73投稿者:再会67 投稿日:2007/11/12(月)21:53:46
- 橋本先輩と手短に近況報告をした後、会場に入って
先に来ているという市島を探そうと思った。
会場はバイキング形式で、回りにテーブルが並べてあった。
幾つかのテーブルでは僕の知らない、かなり上の年代と思われる
先輩方が、すでにグループになって昔話に花を咲かせていた。
自分の年代に近い先輩、後輩そして同期は何人来るのか。
ちょっと不安になったとき。
「杉やん、こっちこっち」
隅っこの方のテーブルの傍に、椅子に腰掛けた体格の良い男が
こっちにむかって手招きしていた。
「市島、やっぱり来たんやな」
「いや、来るつもりなかったケドな、ヒマっちゅーか時間できたし」
笑いながらそう言うと、ポケットからタバコを出して火をつけた。
「……あいかわらず、セブンスターか」
そう市島に言うと
「軽いのに替えようとしたけど、やっぱりこれに戻るわ」
目を細めて美味そうにタバコを吹かした。